年度末の決算日がやって来ました。
今年度は終始コロナコロナとてんやわんやの1年でしたが、緊急事態宣言下におけるステイホーム需要や、ジャンプ+をはじめとした電子書籍アプリでの大規模な無料開放の影響もあって、漫画に触れる機会の増えた年でもあったのではないでしょうか。
さて今回も、昨年度に引き続き、僕の大好きなジャンプの打ち切り漫画を1年分おさらいしてみようと思います。長くなりますが、よろしければお付き合いください。
昨年度版はこちら。
ikiumejapan.hatenablog.com
誌面を彩った打ち切り漫画たち
ZIPMAN!!
2020年1号~19号(享年17話)
脳筋の兄と天才科学者(故人)の弟が力を合わせて戦うロボットバトルアクション。
パワー溢れる戦闘シーンを武器にした痛快な作品でしたが、正統派ヒーローモノとしての目新しさが出せず低迷。早々に打ち切りも決まってしまい、『紅葉の棋節』(2018年)以来約1年半ぶりの全2巻完結となりました。
特に響いたのは、序盤から物語のゴールが不明瞭だった点でしょうか。1話ごとの引きもやや弱く、毎週ぶつ切りになっているような形で、どこに向かうのかわからないまま漠然と物語が進んでいるような印象を強めてしまっていたようにも思えます。結局、敵の正体や目的などのほとんどが明かされないまま終わってしまいました(大半は単行本あとがきにて補完)。
個人的には諸々のデザインやダイナミックな構図が好きだったので、もっと色んなサブキャラが出てきて活躍するところを見てみたかったですね。その点、今Vジャンプで連載している『ダイの大冒険』のスピンオフでは芝田先生の持ち味が活きていていい感じなので売れてほしい。
もうひとつの勇者物語 1/11 pic.twitter.com/JJvxVqZ78b
— 芝田優作 (@tokiwablue21) 2021年3月4日
魔女の守人
2020年10号~29号(享年19話)
市国最強の騎士が、護衛対象の魔女が抱える不幸な運命に立ち向かうダークファンタジー。
冒険・バトル・修行とオーソドックスな展開をなぞってはいたものの、設定の矛盾やツッコミどころがあまりにも多く、読者の支持は得られず。あっという間にドベまで下落し、そのまま打ち切りとなりました。
世界観や主人公の『特定行動』が某巨人漫画に酷似していたりと、どこかで見たような要素が随所に見られたこともマイナスに作用しました。一方で、謎の効果音「ヲヲヲ…」を筆頭に独特のセンスが遺憾なく発揮されているのもまた事実で、良くも悪くもくっきりと爪痕を残した作品であると言えるでしょう。
僕自身もこの坂野先生の個性が妙にクセになった読者の一人で、少なからず本誌復帰に期待を寄せています。話づくりの穴を埋めていったところに元来の感性のズレを上手く乗っけられたら面白い漫画が生まれるかもしれないので、そのあたりのバランス調整を編集さんが一緒に頑張ってくれたら嬉しいですね。
あまり関係ないですが、各所で「魔女八」呼ばわりされているのがかなりツボです。八八の遺産がデカすぎる。
アクタージュ act-age
2018年8号~2020年36・37合併号(享年123話)
異常なまでに深く没入する迫真の演技力を持つ貧乏少女が、女優として成長していく物語。
最序盤こそ苦しみましたが持ち直し、中堅以上のポジションをキープして着実に人気をつけ、実写舞台化等のメディアミックス企画も始動……というタイミングで、作者の不祥事により衝撃の連載終了。多くのファンが失望し悲嘆に暮れました。
不人気による打ち切りではないどころか、むしろ物語としては佳境に差し掛かろうかという場面だったにもかかわらず、不幸にも未完の名作となってしまいました。こんなところまで『ガラスの仮面』に似なくても……。
連載終了時にお気持ち文を出すくらいには好きな漫画なので、打ち切り漫画として名を挙げるのは後ろめたくもありますが、円満完結を迎えられなかった作品としてここに並べておくことにしました。二度とこんな形で打ち切られる漫画が生まれないことを祈ります。
ミタマセキュ霊ティ
2019年40号~2020年36・37合併号(享年47話)
霊媒体質の女子高校生のもとに現れた霊専門のボディガード「セキュ霊ティ」が繰り広げる除霊ギャグ。
なかなか掲載順は上がらないながらもユニークな存在感を放って中堅下位に定着し、まもなく1周年を迎えるという頃合いで非情にも打ち切り。『アグラビティ』『モリキング』『マグちゃん』『ロボコ』と、ギャグ漫画が蠱毒のごとく大量投入されたことが向かい風となりました。限られた枠の中でよりパンチのあるギャグ漫画を求めていたかのような編集部の意図も見て取れますが、既に一定の人気を獲得していたこともあって、打ち切ってしまうには少々もったいない作品でした。
図らずも『アクタージュ』が同時に終了となり、こちらを打ち切らずとも枠が空く状況になった点も間が悪かったですね。Twitterや巻末コメントを見るに鳩胸先生もまだまだ余力を残していたようで、ますます打ち切りが悔やまれる結果となりました。
基本的にツッコミが控え目で、読者の感性に任せてくれるような作風が個人的にはすごくハマりました。喧しくビシバシとツッコミを入れるレギュラーキャラがいないことで、作品全体の柔らかく優しい空気が保たれていた気がします。あとハゼレナが可愛い。
不運とも言える打ち切りでしたが、『剥き出しの白鳥』ぐらいブッ飛んだ漫画もまた見てみたいので次回作が楽しみです。
ボーンコレクション
2020年21・22合併号~38号(享年15話)
ポンコツ陰陽師の高校生が、人間になりたい大妖怪と共に戦う妖怪バトルコメディ。
バトル&ラブコメが主軸かと思いきや、その実は大幅にギャグに寄せた不思議な読み味の作品。王道ヒット作に見られる、シリアスなバトル中にも気の抜けたギャグを挟むといった緩急のバランスを意図的に崩して“緩”をマシマシにしたような印象です。前衛的な試みでしたが、結果的には全編を通してゆるゆるで掴みどころがなくなってしまい打ち切りルートへ。
読切版が好評だっただけに、連載にあたって大きく方向転換したことが裏目に出ていたように見えます。コメディ色が濃くなっていたり、骨を探し集める話が骨を使い切る話になっていたり、主人公が思いを寄せる側から寄せられる側になっていたりと、改悪とも取れる変更が目立ちました。
自分が禁術を使ったせいで親友(かわのしん)が命を落とした過去があるのに、なおも軽率に禁術を使おうとする主人公の倫理観の欠如も終始引っかかる部分でしたね(一応、最終話で補完されましたが)。ギャグでは流せない、重めの違和感が足を引っ張ってしまう形になりました。
やはり、バトルモノの体で始まってしまったことが最大の失策でしょうか。読切版や1話のアオリ等にも「ギャグ」「コメディ」のイメージ付けがなかったことで、予想外のユルさに戸惑ってしまった感覚です。
ひとたびそういうものだと理解してしまえば楽しみやすい作品だっただけに、第一印象がズレてしまったことが悔やまれます。ミルクボーイでゴリ押しする回とか結構キレてて面白かったんですけどね。
タイムパラドクスゴーストライター
2020年24号~39号(享年14話)
未来の少年ジャンプを手にした漫画家が、盗作で連載を始めるタイムスペクタクル。
今年度最強の問題作と言っていいでしょう。連載開始即炎上、爆速でドベ到達、わずか14話で完結という近年でも屈指の打ち切り漫画となりました。謎だらけの設定、狂った倫理観、理解不能な行動原理、そしてやたら力のあるクリフハンガーと、読者の頭を悩ませる要素がごちゃごちゃに盛られた恐ろしい作品です。
打ち切りの原因を探せば枚挙に暇がありませんが、特に「作者の知っている情報」と「登場人物それぞれが知っている情報」の区別が上手くいっていない点が印象的でしたね。結果、「読者の知っている情報」も全くコントロールされておらず、読者目線ではハチャメチャで筋の通らない展開が繰り広げられてしまいました。
この『タイパク』は僕のイチオシで、詳しくは以下の記事に書いた通りです。間違いなくジャンプ打ち切り漫画史に残る名作ですが、この漫画を読むくらいなら『STEINS;GATE』をやりましょう。
AGRAVITY BOYS
2020年2号~2021年5・6合併号(享年50話)
未開の惑星で、4人の天才少年が滅亡した地球を再興する術を探すズッコケ宇宙開発ギャグ。
綺麗な絵柄でお下劣なネタを連発するスタイルで強烈なインパクトを残し、「汚いアストラ」などと呼ばれて愛されて(?)いました。長らく中堅下位に定着していたもののギャグ漫画同士のサバイバル勝負を生き残れず、辛うじて1周年を迎えた直後打ち切りに。
高年齢層にはある程度ウケていた一方で、少年ジャンプがメインターゲットとする低年齢層からの票が集まらなかったようなイメージです。うんこ・ちんちんで笑うコロコロコミックを卒業してきたばかりの少年読者たちはうんこ・ちんちんでは笑わない、ということですね。年を取って一周回らないと、この漫画を楽しむことは難しいのでしょう。
正直、打ち切られても仕方ないと言えてしまう部分も多々ありますが、どこかで続いていてほしいタイプの漫画でした。幼児退行じみた脳死パワーワードは疲れた大人たちの癒しです。僕も一生「おちんちん相対性理論」とか言っていたい。
森林王者モリキング
2020年20号~2021年7号(享年35話)
人間の姿をしたイケメンカブトムシが、すべての生命の王を目指す“王道”昆虫ギャグ。
早い段階でセンターカラーを獲得するなど上々の滑り出しに思えましたが、次第に掲載順は下落。その後は中堅下位で粘りを見せたものの、ギャグ蠱毒を生き残れず打ち切りの憂き目に遭ってしまいました。時折見せるとんでもない爆発力が売りでしたが、よりコンスタントに高いクオリティを発揮する器用な後発ギャグ漫画陣に敗北を喫してしまったような印象です。
どうしても設定が読切向きで出オチ感が拭えず、失速した後の取り返しがつきませんでした。長谷川先生の持ち味である狂気に満ちたパワーと勢いを活かそうにも、話を広げるのが難しい題材を選んでしまったことが災いしたでしょうか。そもそも昆虫の擬人化であるメインキャラクターたちが既に狂気の塊のような見た目をしているため、却ってネタのインパクトが薄れてしまったようにも感じられます。今にして思えば、前作『青春兵器ナンバーワン』ではメインキャラたちの小さく可愛いマスコットのような見た目が狂気をいっそう際立たせるエッセンスでしたね。
『磯兵衛』や『ダビデ君』からも感じられたことですが、見た目のインパクトが強すぎる漫画は読者がそのシュールさに慣れて麻痺してしまうので、それを超えて面白いネタを出し続けるのはやはり至難の業ですね。慣れって恐ろしい。
ぼくらの血盟
2020年41号~2021年8号(享年18話)
血の契りを結んだ人間と吸血鬼の兄弟が、相反する種の共存を目指す物語。
共存のために戦いの道を歩むという構図こそ用意されていましたが、ストーリー上の目標に具体性がなく、何を成すべきなのかよく分からないまま時間だけが流れて打ち切り街道をまっしぐら。最期は打ち切り特有の駆け足回収を見せることさえなく、尻切れトンボで終了となりました。
物語序盤から全くと言っていいほど世界観や背景が明らかにならない有様は「知らない漫画の二次創作」と形容され、「きっと原作では描かれていたはずだ」と在りもしない原作の幻影を追い求める読者まで現れる始末に。
その後しだいに明らかになってきた設定も非常に粗が多く、基本的に吸血鬼が人類にとって害でしかなく共存を目指すメリットがない、人の血を毎日吸わないと暴れ出す危険生物が国内に20万も存在しているのに認知されていない、それはそれとして吸血鬼狩りの組織は路上で大暴れする……等々、知れば知るほど訳が分からなくなる底なし沼のような世界が繰り広げられました。
ここまで破綻に破綻を重ねた設定が見られるのは相当レアなケースなので僕も興奮しましたが、流石にもうちょっとどうにか出来なかったものかとモヤモヤする心境でもあります。まるで作者の思いつきがそのまま誌面に出てきてしまっているかのようで、編集さんや周りの人たちの働きぶりに不信感を募らせてしまいますが……きっと何かやむにやまれぬ事情があったのでしょう。
総括
今年度の少年ジャンプは人気作が相次いで完結を迎え、例年より多くの新連載が始まる状況となりました。暗黒期突入も危惧される中で、勢いよく人気を集める新鋭が現れたかと思えば、『サム8』に続けとばかりに『タイパク』や『ぼくケツ』といった問題作も登場して、大賑わいの1年でしたね。
止むを得ない都合や編集部の方針もあって、一度は定着路線に乗りながらも打ち切りに至ってしまった作品たちも目立ちました。ギャグ蠱毒の犠牲になった打ち切り漫画たちは悔やまれますが、その上に生き残った『ロボコ』や『マグちゃん』の信頼感たるや格別のものです。残酷ではありますが、これもジャンプの醍醐味としてポジティブに楽しみましょう。
打ち切り漫画を振り返る材料のひとつとして、先日公開されていた松井優征先生の講義が大変ためになるのでおすすめしておきます。漫画の「防御力」、特に「兼ねる」工夫。これらの要素が不足しているというだけで打ち切りの理由にほぼ説明がついてしまうほど、見事に核心を突いている必見の講義です。
jump-manga-school.hatenablog.com
また、その松井先生の『逃げ若』を含め、大量投入された新連載たちがなおも熾烈な生存競争を繰り広げています。長期連載を経験したベテラン作家も多く参入しており、今後の打ち切りレースからも目が離せません。これからも新連載の動向を見守り、好みの漫画を見つけたら惜しみなく応援していきましょう。
以上の感想をもって、今年度の打ち切り漫画決算としたいと思います。
これを読んだ方に僕の熱量が少しでも伝わって、「後ろの方に載ってるやつにもなんか面白い部分があるんだな」と思っていただけたなら幸いです。
緊急事態宣言こそ解除されましたが、まだコロナ禍の収束は遠く、外出自粛ムードも続くことが予想されます。この機会にお家でたくさんの漫画を楽しみましょう。
俺たちの戦いはこれからだ。各先生の次回作にご期待ください。
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今年度も1年分の打ち切り漫画たちをおさらいしました。少年ジャンプを毎週なんとなく読んでいる皆さん、この記事を読んで彼らの事を思い出してあげてください。 #はてなブログ
— ササンチ (@pluMegane) 2021年3月31日
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