年度末の決算日がやって来ました。
今回も、昨年度に引き続き、僕の大好きなジャンプの打ち切り漫画を1年分おさらいしてみようと思います。長くなりますが、よろしければ最後までお付き合いください。
昨年度版はこちら。
誌面を彩った打ち切り漫画たち
大東京鬼嫁伝
2022年40号~2023年18号(全29話)
異界から来た鬼の姫が、東京の男子高校生のもとへ許嫁として押しかける下町モノノケバトルコメディ。
前年に本誌で好評だった人妖ボーイミーツガール読切が、ほぼそのまま第1話になる形で連載スタート。しかし物語を続けるにあたって明確なゴールや道筋を用意することができず、最下層に居座ったのち打ち切りに。
やれやれ系主人公のもとへ人外ヒロインが次々と投入されてドタバタ……という一昔前のラノベでよく見たフォーマットで、ジャンプと言うよりむしろガンガンやエースの空気に近い作風。であればハーレム系ラブコメなのかと思いきや、バトル、コメディ、家族ドラマと要素が取っ散らかって、本筋があやふやで掴みどころのない作品になっていました。
ともすれば現代版『うる星やつら』になれるかもしれない題材でしたが、ストーリーもギャグもパワー不足で、クセの強い新キャラが刺さるか否かの美少女ガチャを引いているだけの印象すら受けました。キャラが先行して会話劇がちぐはぐな場面があったり、細かなミスも多かったのが悔しいところ。
とにかくキャラクターが強烈な分だけ、自然な形でストーリーに乗せて動かすのが難しかったですね。折角みんな気合いの入ったデザインをしているのに、全く出番の与えられない子もいてもったいなさを感じました。個人的にはけろるがツボだったのでラッキーでしたが。
ギンカとリューナ
2022年41号~2023年19号(全29話)
山奥育ちの魔法少女が、師匠の雪だるまと一緒に世界へ飛び出すマジカルアドベンチャー。
第1話は概ね好反応を得たものの軌道に乗れず、同期の『鬼嫁伝』と仲良く最下位争いをして打ち切りへ。最後はまるでトゥルーエンドを逃したノーマルエンドのような、ポジティブでありながらもやりきれない歯痒さを残す結末となりました。
ダークな設定のヒット作が続くジャンプ誌面上では明るいファンタジーは却って目新しく、需要もチャンスもあるかに思えましたが、それをがっちり掴めるだけの長所を打ち出せませんでした。作中世界における魔法の役割や仕組みが明白でなく、何が出来て何が出来ないのかがよくわからない状態だったことがファンタジーとしての満足度を下げていたでしょうか。
特に致命的な欠点があったイメージはありませんが、師弟バディモノとして弟子の成長を見守りたいのに師匠・ギンカの存在感が少々強すぎたのはいただけないポイント。本来の体を失って弱体化しているはずなのに、結局いつもボスキャラにとどめを刺す役をおいしく持っていくことになるし。
正直、ギンカは見た目のデフォルメが強すぎてずっと浮いている感触が拭えませんでした。そういう異形としてのデザインなのはわかるんですが、ちょっと表情に乏しくて(かといって全くの無表情でもなく)、好きになりたいのにあまり好きになれなかった。ちっちゃいギンちゃんは可愛かったし、素のサイズ感で脳がバグったかも。
イチゴーキ!操縦中
2022年52号~2023年20号(全19話)
機械人間に改造された少年と、それを操縦するマッドサイエンティストな幼馴染による学園ギャグ。
アニメ化までした『ジモトがジャパン』の林先生による3年半ぶりの本誌連載でしたが鳴かず飛ばず。あっという間に最下位争いに加わり、打ち切り漫画としては『ぼくらの血盟』以来の全2巻完結となりました。
迷惑をかける側とかけられる側が露骨に分かれる構図の、一方的なイジリにも似た笑いが時代に逆行していて非常にまずかったですね。ぶっ飛んだギャグの勢いこそ健在でしたが、この違和感・不快感を吹き飛ばせるほどのものではありませんでした。
主人公を振り回し続けるポンコツヒロインを愛されキャラたらしめる工夫が足りず、ヘイト管理に失敗してしまったのが決定的でした。頭のおかしいことをする狂気(褒め言葉)は十二分にあるだけに、こういう部分でコケてしまうのは惜しかった。『僕とロボコ』はこの辺りを相当うまくケアしていることを再確認。
余談ですが、勉タメジャンプの方で『ジモト』が復活していたようで嬉しい気持ちになりました。低年齢層向けのお勉強コンテンツとして親和性が高くてすごくいい。
人造人間100
2023年1号~40号(全36話)
不老長寿一族の生き残りが、一家を惨殺した人造人間たちを滅ぼすダークメルヘン復讐譚。
受賞から連載デビューしても高確率で打ち切りになってしまうことでおなじみの金未来杯、2021年のグランプリ受賞作。長期連載陣の離脱によって運よく生き長らえるも下位からの脱出は叶わず、呪いの漫画賞のジンクスをより強固なものにしてしまいました。
設定こそ練り上げられていましたがそれ以外は粗削りな部分が目立ち、疑問が残る表現の多さが作品への不信感に繋がってしまいました。主人公の非力さに加えてサブキャラの影の薄さもあり、100号以外に読者を強く引き付ける存在が足りなかったことも大きな敗因でしょうか。
実際、ほぼ独力で作品を保たせていた100号の魅力は本物で、見事なキャラクター造形でした。歪ながらも主義が一貫していて、人間と人造人間の残酷なまでの相互不理解も納得の内容。打ち切りが決まった中でも100号の物語は美しいメリーバッドエンドにまとめ上げ、さらには圧巻の番外編で綺麗に補完する手腕を見せてくれています。
しっかりと一本筋を通す力があって、今年度の打ち切り漫画の中で最も光るものを感じました。次回作に期待したいですね。
テンマクキネマ
2023年19号~41号(全21話)
天才脚本家の亡霊に憑かれた中学生が、その遺志を継いで最高の映画を撮る青春キネマ活劇。
美麗作画の”おはだけ”で人気を集めた『食戟のソーマ』のコンビによる新作ですが肩透かし感が否めず、あっさりと最下層まで到達。そのまま何事もなく打ち切り街道を直進してしまいました。
誰もがお色気要素を熱望する名手の帰還でしたが、蓋を開けてみれば至って硬派。映画のハウツーを紹介するお仕事モノ路線で勝負に臨んだはいいものの、題材もキャラクターもかなり地味でキャッチーさがなく、期待外れと言わざるを得ない出来栄えでした。全体でただ一本の映画を撮るという構成上、その過程で大きな課題のクリアやレベルアップが描きにくく、トラブル程度のドラマに終始してしまったことも盛り上がりに欠けた要因でしょうか。
大コンプラ時代のプレッシャーには抗えなかったのか、サービスショットをほぼ封印する縛りプレイで自滅してしまった印象です。露骨なセクシー路線とは行かないまでも、スパイス程度には織り交ぜてよかったのではないかと残念に思います。これは僕がスケベなだけではなく、せっかくの素晴らしい武器だから活かしてほしいという話です。決して僕がスケベなだけではなく。
あとはやはり作中作の扱いの難しさが出ましたね。作中で絶賛されている『渚』も具体的にどうスゴい作品なのか伝わってこなくて、作り手側に気持ちが乗せられない。ちょっと『タイパク』を思い出してしまいました。ゴーストライターだし。
ドリトライ
2023年23号~42号(全19話)
昭和初期の日本を舞台に、戦災孤児が拳ひとつでのし上がるハングリー拳闘スポ根。
独特な味のある打ち切り漫画『ボーンコレクション』で爪痕を残した雲母坂先生が、監修も付けた時代モノでリトライ。わずか9話というド級の速さで最下位までぶっちぎり、堂々の全2巻完結を飾りました。
相も変わらずアクの強いハチャメチャな作風で、最序盤から読者を振るい落としてしまいました。理解を超えた強烈なキャラクターや演出が続々と放り込まれてツッコミどころは数知れず、かといってギャグとして受け取るべきとも断じきれない、どこまでも破天荒な問題作。主人公たちにやや重苦しい背景が用意されていて丁寧な展開が求められていた分、この中身とのギャップはあまりに大きく、扱いに困るものでした。
少なくとも、終盤に示されたテーマ「強い心で戦う姿が、傷つき疲れた戦後の人々の心を励ます」は素敵だったので、これを早めに掲げて進んでほしかった……ですが、それだけで変わるようなレベルでもなさそうですね。とにかくスケールの違う、まさしくド級の突き抜け具合でした。
良くも悪くも、読む者の心に衝撃を残したことは間違いありません。ネット上では「ド級の○○」がミーム化して打ち切り以降も(むしろ打ち切られてからの方がより一層)擦られていて、作中の台詞ですらない「心が強ぇ敵なのか…!?」まで語録入りする始末。深刻な素材不足。
一ノ瀬家の大罪
2022年50号~2023年49号(全48話)
事故で記憶を失った中学生が、訳あり気な家族と事故の謎に迫るミステリアスホームドラマ。
ジャンプ+の超話題作『タコピーの原罪』のほか、名作読切も数多く世に送り出してきたタイザン5先生がついに本誌に参戦。謎が謎を呼ぶ展開で読者の心を引きつけたのも束の間、そのままこんがらがって転んでしまい、中堅下位で粘ったのちに力尽きました。
夢オチのループを繰り返して核心部分が見えてこないまま進んでいき、最後まで広げた風呂敷を畳めませんでした。問題のある家庭が舞台だっただけに胸糞描写も多く、明かされない謎と相まってフラストレーションを溜めに溜めていましたが、特に何のカタルシスも得られることなく終わってしまったのが極めて無念です。
一生懸命に考察を続けて追いかけていても、クリフハンガーだけで引っぱられた果てに連続ちゃぶ台返しで全てを無駄にされる体験がシンプルに最悪でした。どこまでが夢でどこからが現実かすらわからないまま疑い続けなければならず、単に難解と言うよりは不親切な読みづらさを感じましたね。メインギミックである夢のループ・共有といったファンタジー要素にも満足な説明がなされなかったのは誠に遺憾です。
過去の実績もあり、作者の名を冠した漫画賞も大々的に執り行われていた中での連載作品がこんな有様になってしまったのは色々とダメージもありそうで、流石に可哀想。次回作で名誉を回復できることを願います。
アイスヘッドギル
2023年30号50号(全20話)
王都を追われた斧使いの少年が、父の汚名を雪ぐためにリッチ(屍鬼)と戦う雪国バトルアクション。
ヴァイキングをモチーフにした北欧風の王道ファンタジーでしたが、『ドリトライ』に続いて9話でドベ落ち。打ち切り特有の急ぎ足でラスボスまで片付け、全2巻完結の末路を辿りました。
設定の練度やキャラクターの個性など、それぞれの要素が少しずつ欠けていて物足りない読み味で、先述の『ギンカとリューナ』同様、短所の多さより長所の少なさで人気を取れなかったケース。テンプレをなぞるでもなく新規性を打ち出すでもなく、輪郭が曖昧なまま埋もれてしまいました。
オンド王周りのエピソードはかなり体重が乗っていた気がするので、ああいう葛藤のあるドラマが描けるならそれをじっくり読んでみたかったですね。ただそれにしては全体が明るい王道路線に寄りすぎていて、中途半端で入り込みづらい。いっそ王道で行くならストレートに可愛いヒロインとか居てよかったと思う。
あとキャラデザのせいで主人公が「煉獄炭治郎」呼ばわりされていて笑ってしまいました。確かに鬼滅フォロワーっぽいユルさはあったけれども。
暗号学園のいろは
2022年51号~2024年10号(全58話)
暗号解読員を養成する傭兵学校でクラス唯一の男子生徒が艱苦奮闘する学園謎解き群像劇。
人気小説家、西尾維新先生による『めだかボックス』以来の本誌連載。この世界情勢の真っ只中で、"戦争を停める"テーマに切り込んだ意欲作です。万人受けこそしないものの熱烈な支持を集め、しばらくは中堅に定着するかに見えましたが、じわじわと掲載順を下げて打ち切り完結を迎えました。
今作も終始一貫して言葉遊びに満ち満ちた西尾節が全開で、海外向けの翻訳担当者がたまらず匙を投げるほど。良く言えば味のある、悪く言えば回りくどい台詞回しの数々は確実に読者を篩にかけていました。文字情報の多さに加え、難問だらけの謎解きや、大量投入される新キャラたちも相まって、少年誌にしては読み手の負荷が大きすぎるハイカロリーな仕上がりに。
面白さ以前に好き嫌いがはっきりと分かれる作品でしたが、個人的には結構好きで楽しめました。ただどう考えてもこの漫画のファンはマジョリティではないので、打ち切りは残当。
物語が進むにつれて人が増えすぎてゴチャつきがちなところでしたが、暗号そのものに各キャラのパーソナリティがどんどん乗るようになっていって、新しい登場人物も含めて愛着を持てる構造が出来上がっていたのが流石でしたね。キャラデザも作画も可愛くて表現力豊かで、岩崎先生の漫画ももっと読みたくなりました。
アスミカケル
2023年29号~2024年11号(全32話)
武術家の祖父を持つ弱気な少年が、総合格闘技の世界に足を踏み入れる本格MMAスポ根。
同作者のヒット作『火ノ丸相撲』とも少し世界が繋がっている格闘モノ。カラーを複数回獲得するなど期待度の高かったことが窺えますが、惜しくも踏ん張り切れず打ち切りの憂き目に遭いました。
『BREAKING DOWN』などの流行を汲んだ鋭いテーマ選びでしたが、リアル路線でMMAの駆け引きを忠実に描く方針を取ったところ、今一つ派手さに欠ける結果に。『火ノ丸』から共通する弱点である男臭さ・華のなさと合わさって、大衆受けからは遠ざかってしまいました。終盤になるまで主人公がなかなか闘志をギラつかせなかったこともあり、気持ちの面でドカンと盛り上がる山場を用意できなかったのもかなりの痛手。
ド派手なトンデモ技が欲しかったとは言わないまでも、ある程度ハッタリを効かせることは求めたいのがジャンプのスポ根。リアルさ重視のMMAでは、作中でも出た開幕飛び蹴りぐらいが派手さの限界で、あとはどうしても絵面の地味な泥臭いやり取りが必要になってしまうのが苦しかったですね。ただでさえジャンプで格闘系は難しいと言われているのに……。
川田先生の描く汗臭くてむさ苦しい世界のファンが少なからず今作も支持していたのは事実で、僕もその一人です。このままの路線で大ヒットを飛ばすのは至難の業かもしれませんが、出来るだけ今の持ち味を失わないままの次回作を見たい。
総括
今年度は『ブラッククローバー』の移籍や『マッシュル -MASHLE-』の完結があった中でも、20話前後で打ち切られる作品が多かったことで打ち切り漫画の本数が増加しました。『ドリトライ』のような輝きを放つ良作も見られ、比較的豊作の年と言えそうです。
この調子でペース良く打ち切ってどんどん新しい風を吹かせてほしい……というのが本来の僕の主張でしたが、直近で打ち切られた『いろは』『アスミ』や今なお打ち切り圏内にいる『魔々勇々』『ツーオンアイス』『グリーングリーングリーンズ』がどれも大好きなので、今だけは勘弁してほしいと思っています。最近ずっと見守りたい漫画が思うほど人気でなくて苦しい。
日照り続きだったスポ根が立て続けに供給されているのも、ひとまずポジティブな兆候と見てよさそうです。全然定着してくれませんけれども。みんなスポ根読みたくないの?『アスミ』も『ツーオン』も『グリーンズ』も長い目で見守ろうよ。その勢いで『テニプリ』や『黒子』の系譜を継ぐ令和のトンデモ能力系スポ根の出現に期待したい。
長期連載陣の完結・最終章が続いて、次世代の王道バトル漫画が求められているのは相変わらず。直近では『魔々勇々』『カグラバチ』がプッシュされていますが、狙ったほどの伸び方は出来ておらずもどかしいところです。
この状況で枠を埋めるのが『キルアオ』『鵺の陰陽師』でホンマにええんか?と言いたくなってしまう。ワイの感覚がもう世間の王道とズレてもうてるんか? なんか嫌な年の取り方をしている気がします。
ともあれ、次の看板漫画は、やはり打ち切り漫画の山の中からしか生まれません。来年度もまた、まだ見ぬ名作を待ちながら誌面を見守っていきましょう。
以上の感想をもって、今年度の打ち切り漫画決算とします。
これを読んだ方に僕の熱量が少しでも伝わって、「後ろの方に載ってるやつにもなんか面白い部分があるんだな」と思っていただけたなら幸いです。
俺たちの戦いはこれからだ。各先生の次回作にご期待ください。
今年度も1年分の打ち切り漫画たちをおさらいしました。少年ジャンプを毎週なんとなく読んでいる皆さん、この機会に彼らの事を思い出してあげてください。
— ササンチ (@pluMegane) 2024年3月31日
【2023年度】少年ジャンプ打ち切り漫画決算 - フリーライターなるしかねえ #はてなブログ https://t.co/mS8ZHBgIsL