年度末の決算日がやって来ました。
今年度は相変わらずのコロナに世間も慣れ、オリンピックもどうにか開催できて各種イベントが復活の兆しを見せたかと思いきや、年明けには国際情勢が大変なことになってしまったりと、なかなか心の休まらない1年でしたね。
さて今回も、昨年度に引き続き、僕の大好きなジャンプの打ち切り漫画を1年分おさらいしてみようと思います。長くなりますが、よろしければお付き合いください。
昨年度版はこちら。
誌面を彩った打ち切り漫画たち
仄見える少年
2020年39号~2021年18号(享年31話)
ものぐさな高校生霊媒師が霊怪退治の道を歩んでいくホラー系バトル漫画。
ホラーにマッチした絵柄とスリルのある演出で人気を集めたかに思われましたが、いまひとつ盛り上がりを欠いて停滞。単行本の売れ行きは良く、長期連載作品の完結にも支えられて生き永らえつつあったものの、肝心の掲載順が上がらず完結となりました。
展開の速さこそありませんでしたがさして大きな瑕疵もなく、短所の多さではなく長所の少なさ・弱さで軌道に乗り損ねたパターンでしょうか。無気力主人公+守られヒロインという構図も打ち切りレースにおいては重荷でした。後にヒロインはアツい覚醒を迎えましたが、これも時すでに遅し。
個人的にはどこかでドカンと跳ねてくれそうな予感もあったので、出来ることならジャンプ+等でゆっくり見せてほしいと願ってしまうような口惜しい打ち切りでした。この漫画に寄せられていた期待の大きさは、異例の発行部数が示している通り。令和の『ダブルアーツ』ですね。
BUILD KING
2020年50号~2021年19号(享年20話)
2人の少年が"平和を造る"大工を目指す建築バトルファンタジー。
大ヒットした『トリコ』の島袋先生による待望の新連載でしたが、10話で早くも最下位まで転落。そのまま巻き返しも叶わず、最後は完結編を単行本とジャンプ+に託して尻切れトンボで終了を迎えました。
作者コメントで「難産でした」と述べられていた通り、設定は試行錯誤の末に練り上げられたことが窺える内容でしたが、それをスマートに繰り出すことが出来ませんでした。また、衣食住というテーマの親しみやすさこそあれど、『トリコ』には"食べたい食材"が出てきたのに対して、『BUILD KING』には"住みたい家"がなかなか出てこなかった点も決定的な差になっていました。
ジャンプおじさんとしては冒頭のワクワク感に胸が膨らみましたが、そもそもの作風やデザイン(特に主人公のビジュアル)が現代の読者には合っていなかったように感じます。作品全体に古臭さを残しているのもある程度は意図的なものと思われますが、結果としては裏目に出てしまいましたね。
打ち切りの後に5話分もの原稿を描き上げた作者の心情を思うと居たたまれない気持ちになります……。そのプロ根性に敬意を表しつつ、次回作に期待。
灼熱のニライカナイ
2020年30号~2021年29号(享年47話)
ハードボイルドな刑事が南の島で出会った不思議な少女の謎に迫る海洋バトルコメディ。
同作者の『べるぜバブ』になれるか、それとも『腹ペコのマリー』になってしまうのかが注目を集めた新作。早い段階でセンターカラーを獲得したかと思えば数週後には最下位まで転落するなど安定感を欠き、1周年にあと僅か及ばず打ち切りとなりました。
見やすい絵柄とテンポの良さは健在ながらも、バトル、コメディ、ミステリー、ハートフルドラマと話が取っ散らかって本筋を見失いやすく、迷走していたようにさえ見受けられます。刑事バディ、キメラ怪人、疑似家族、カルト教団、常夏の離島暮らしとそれぞれの要素は引きのあるものだっただけに、これら全てを一つの物語にまとめ上げるのが難しくなってしまいました。
これは邪推ですが、あらかじめアンケートの結果次第でどちらにも転べる構成にしてあったような気がします。読者の反応に合わせて展開を変えるのもヒット作を生み出すためには有効かもしれませんが、「あくまでも物語の軸はこれだぞ」という部分には最初から明確な一貫性が欲しかった。
アイテルシー
2021年9号~2021年30号(享年21話)
犯人を愛してしまう女性刑事が不可解な事件を解決していくクライムサスペンス。
顔を隠した主人公を事件の犯人だとミスリードさせる第1話でインパクトを残したのも束の間、その後はつかみどころのない内容が続いてあっさりとドベに到達。そのまま打ち切り街道を突き進んでしまいました。
全体的に粗の多い作品でしたが、根本的なミスを挙げるとすればリアリティの線引きが中途半端だったところでしょうか。ぶっ飛んだ主人公を動かすにしては現実寄りすぎる世界設定が災いし、トリックの甘さや警察組織の杜撰さなど、ツッコミどころが悪目立ちしてしまう形になっていました。主軸となるキャラクターが相当な変わり者で言動のユニークさもあったがために、全体を尖る方向に振り切れなかったことが響きましたね。
僕自身も作者の独特すぎるセンスが全くハマらなかった側の読者なので何とも言い難いですが、前作からも共通した妙な狂気は感じるので、これをいい方に転がせば『ネウロ』に近い何かが生まれそうです。世間一般の感覚と摺り合わせる作業が相当難しそうですが……。
クーロンズ・ボール・パレード
2021年11号~2021年31号(享年20話)
急造バッテリーが訳アリの仲間を集めて古豪野球部を復活させる王道野球漫画。
ジャンプで長らく鬼門とされている野球ジャンル、なおかつ部員集めを主軸にするストーリー。ところが、チームが完成するまでに打ち切りが決まってしまうのではないかという大方の予想を覆す……ことはなく、鳴かず飛ばずで完結となりました。
野球シーンの描写などにも細かな失敗はありましたが、何と言っても序盤にテンポを失ったことが最大の敗因でしょう。冒頭3話でモタついただけで打ち切りがほぼ確定してしまうジャンプ誌上で、どうしても時間のかかる仲間集め展開から始めたにも関わらず、これといって巻きで進める工夫も見られなかったのが致命的でした。
いくつもの野球漫画に触れてきた人間からすると主人公たちの野球能力にも目新しさはありませんでしたが、個人的にはその点はさほど重大ではなく、仲間集めパートの見せ方次第で十分に面白くなる範囲内だった気がしています(それだけにテンポロスが本当に惜しい)。頭脳派キャッチャーや直球伸び伸びピッチャーの活躍が見たかった人は『おおきく振りかぶって』と『BUNGO』を読みましょう。
アメノフル
2021年20号~2021年41号(享年19話)
ペロペロキャンディを操る女子高生が違法お菓子使いとの戦いに巻き込まれるスイーツバトルコメディ。
ジャンプ+で読切が好評を博した作者の連載デビュー作でしたが、先行した新連載が既に各々の地位を固めつつあった環境下で苦戦。同期の『アオのハコ』とは対照的に、10話時点から最下位層を抜けられずに打ち切りレース敗北を喫しました。
バトルとギャグの配分はコメディ寄りのいい塩梅でしたが、お菓子で戦う設定自体が出オチ気味で能力バトルに活かしきれず、強烈な爆発力を生み出せなかったのが痛手でした。お菓子である理由やお菓子ならではの動きが足りず、必要性のない設定でかえって作品全体を窮屈にしてしまっていたような感触です。
コメディを前面に押し出しているだけあって、ギャグパート、特にレスバトルじみた掛け合いがいい味を出していて僕もたくさん笑いました。間違いなく随所に光るものはあったので、設定周りが整えられれば次回作には期待できるんじゃないでしょうか。特に入江先輩は絶妙な良キャラでした。
レッドフード
2021年30号~2021年49号(享年18話)
故郷の村を失った少年が狩人として成長していく人狼ハンティングファンタジー。
個性的な絵柄やキャラデザが性癖に刺さった大きいお友達を味方につけたものの、大衆の支持は得られず低迷。打ち切り確定後は怒涛のメタフィクションモードに突入し、なんと文字通り「俺たちの戦いはこれからだ」の台詞で幕を閉じました。
初めからメタ展開によるどんでん返しを狙っていたがためにそれ以前の作劇が上手くいかないという、新人作家あるあるを地で行ってしまったようなケースです。言動の矛盾や設定の破綻が目立ち、主人公たちの見せ場も足りず、全体的に釈然としないままで話数を重ねてしまいました。
過去の読切作品の内容を見ても、絵の迫力やファンタジー世界の空気感が突出した武器であることに疑いの余地はないので、その力がより磐石な造りの舞台上で発揮されるところを見てみたいですね。巻末コメントを見るに、不評だったことが精神的にも堪えていたようで心配ですが、またパワーアップした次回作が読めることを祈っています。
NERU -武芸道行-
2021年31号~2021年50号(享年18話)
一人で稽古を重ねてきた少年が武芸の専門学校で切磋琢磨する学園武芸アクション。
電子版少年ジャンプ限定の短期連載から本誌デビューを勝ち取った作品。味のある古風な絵柄で存在感を発揮しましたが、本誌連載にあたって間延びした内容になってしまい読者の心を掴みきれず、あえなく打ち切りとなりました。
作中世界における武芸家がどういう存在なのか、位置付けが曖昧なままフワフワと話が進んでしまって目的地がわからなかったのが苦しいところ。特殊な設定ゆえか、入試以降は学園モノらしいイベントが発生しなかったことも捉えどころのなさに繋がってしまいました。
ジャンプでウケにくい題材や絵柄でチャレンジしていたことは確かですが、それ以前のところで躓いてしまったような印象です。電子限定版は短期集中ということもあって良いテンポで話が進んでいただけに、本誌版で大幅に失速してしまったのがもったいなかったですね。本来はゆったりと読める他紙で輝くタイプなのかもしれません。
総括
昨年度に長期連載作が完結した影響で新連載が誌面に定着しやすくなった分、今年度の少年ジャンプは打ち切りの本数も減っている状況。数少ないラインナップの中には序盤のテンポロスでそのまま沈んでいく典型例が並び、後世に名を残す問題作の出現もなしと、打ち切り漫画ファンとしてはやや不作の1年となりました。
一方で、直近では誌面を支えていた『Dr.STONE』や『破壊神マグちゃん』の完結もあり、新連載が多く投入されています。来年度以降の打ち切り漫画に期待が高まりますね。
現状、少年ジャンプの充実度や層の厚さは数年前に比べて落ちていると言われることが増えています。ここ2~3年で連載を終えたヒット作に対し、新しく加わった面々のパワーが足りていないことは認めざるを得ない事実でしょう。
こんな時に希望をもたらすのが新連載であり、我々が注目すべきもまた新連載です。来年度もまた次々に新連載が始まり、また次々に打ち切り漫画が生まれていくことが予想されますが、それらは常に挑戦であり、その挑戦が次なるヒット作の礎になることは言うまでもありません。今後とも少年ジャンプの挑戦を見守り、惜しみなく応援していきましょう。
以上の感想をもって、今年度の打ち切り漫画決算としたいと思います。
これを読んだ方に僕の熱量が少しでも伝わって、「後ろの方に載ってるやつにもなんか面白い部分があるんだな」と思っていただけたなら幸いです。
先行きの見えない不安定な情勢の続く今日この頃ですが、こんな時に安息を与えてくれるのも漫画のいいところです。思い悩むのはほどほどにして、たくさんの漫画を楽しみましょう。
俺たちの戦いはこれからだ。各先生の次回作にご期待ください。
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今年度も1年分の打ち切り漫画たちをおさらいしました。少年ジャンプを毎週なんとなく読んでいる皆さん、この機会に彼らの事を思い出してあげてください。 #はてなブログ
— ササンチ (@pluMegane) 2022年3月31日
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