年度末の決算日がやって来ました。
今年度は緊迫した世界情勢の中でとんでもない円安も起こったりと大変でしたが、街は概ねかつての賑わいを取り戻し、停滞したコロナ禍からの脱却を感じる1年でもありましたね。
僕はというと相変わらずステイホームを貫き、なおも各種漫画アプリで代わる代わるやってくる無料開放キャンペーンを満喫したりしていました。世の中が元に戻ってもこの文化は残り続けてほしい。合法無料漫画最高。
さて今回も、昨年度に引き続き、僕の大好きなジャンプの打ち切り漫画を1年分おさらいしてみようと思います。長くなりますが、よろしければ最後までお付き合いください。
昨年度版はこちら。
誌面を彩った打ち切り漫画たち
アヤシモン
2021年50号~2022年26号(全25話)
少年漫画脳のバトルジャンキーが歌舞伎町で成り上がる妖怪極道譚。
ジャンプ+の看板作品として大好評を博した『地獄楽』の作者・賀来ゆうじ先生が鳴り物入りで本誌に参戦。ところが、その高い期待度とは裏腹に着々と打ち切りルートへ進み、中ボスの偽物と戦っているところで力尽きる結果に。
後ろ暗い任侠モノの舞台に少年漫画向けのキャラクターを乗せること自体がそもそも難題で、そのギャップの噛み合わなさがそのままどこか釈然としない読み味にも繋がってしまいました。また、過去作と違って常に掲載ペースの早い本誌では作画コストの面が厳しく、作者の持ち味である画力も犠牲にせざるを得なかった部分がところどころ窺えます。
全体的に、本誌へのチューニングがうまくいかなかった印象です。むしろ、ジャンプ本誌の方が賀来先生の力を発揮する場に相応しくないと言ってもいいかもしれません。ドロッとした群像の中で各々の生き様が光っていた『地獄楽』の面白さは、ジャンプ+の土壌でこそ実現し得たのだと再確認させられました。
アニメ『地獄楽』の方は各所のプロモーションからも相当気合いが入っているのが伝わってくるのでヒットしてほしい。ただ直近で『チェンソーマン』が思ったほど振るわなかった例があるので、ちょっと不安もありますが。
守れ!しゅごまる
2021年51号~2022年27号(全26話)
名家のボディーガードを任された10歳児が奮闘するドタバタ護衛ギャグ。
こちらもジャンプ+で大暴れした作者の本誌デビュー作品で、奇しくも『アヤシモン』と共にアプリと本誌の環境の差に苦しむ形に。わずか10話で最下位に到達してそのまま打ち切り直行となりました。
展開の破天荒さでは『恋するワンピース』に負けじと、完結直後のマグちゃんを登場させたりHIKAKINを爆発四散させたりして確かな爪痕を残したものの、どうしてもメインキャラクター側のパワー不足が否めませんでしたね。過去の読切などを見ても、面白変人をたくさん生み出す手腕があるのは間違いないのですが、ほとんどが一発屋寄りなのが長期連載を目指す上では苦しい部分でしょうか。
個人的には遊戯王ネタとかが好きで結構笑ったんですが、あまり元ネタがわからない人が笑えるタイプのパロディではなかったのは寂しいところ。ギャグ枠争いの面では、キャラの活かし方とパロディネタの扱い方で『僕とロボコ』に差をつけられていたように思います。
作者SNSの投稿などを見るに、今作は描いている時点で(おそらく編集側の方針にも)色々と納得がいかず苦労したようで、悔いが残る一作になってしまった模様。『恋ピ』の続きも読みたいですが、雪辱を果たす新作にも期待したいです。
ドロンドロロン
2021年52号~2022年39号(全36話)
少年とモノノケが「しあわせな優しい世界」を目指す退妖ファンタジー。
15話打ち切りとなった『ゴーレムハーツ』から約3年半ぶりの本誌連載となる復帰作。最序盤こそ理想的な展開かに思えましたが、人気が伴わず低迷。辛うじて同期組との生存競争には勝ち残れたものの、下位層からの脱出は叶わず完結を迎えました。
良くも悪くも王道テンプレ感の漂う作品で、それ故に至らない部分が際立ってしまったパターン。もはや能力バトルで鉄板になった無能力系主人公に、本来は討伐対象である敵との共闘、討伐組織への入隊から同僚との切磋琢磨……と、売れ線の要素を備えている一方で、キャラクターや技のデザイン、重要な場面での構図や台詞回し等がやや首を傾げたくなる出来で、盛り上がりにブレーキをかけていました。
土台は万全だったので、シンプルにもっと「この漫画、センスいい!」と感じせてほしかった。ストーリーも目新しさに欠けていて、力の入った描き込みも少々見づらさが勝り、結局いまひとつ鮮烈に頭に残るものがなかったのが悔しいですね。主人公バディが両方とも素直でいい子すぎたのもドラマの奥行きを狭めていた気がします。
編集さんたちのアドバイスをよく聞いて実直に作り上げているであろう姿が目に浮かんでくるような内容でしたが、先達のノウハウを忠実に活用している分、かえって表層的で軽薄な印象も受けてしまうのも事実。各所で必要以上の批判に晒されていて、ちょっと可哀想な気持ちになった覚えがあります。ちょうど長期連載組の多くが完結を見据え始めた時期で、新たな王道バトル漫画への期待が高まっているだけに、コレジャナイ感の反動も大きかったですね。
地球の子
2022年12号~2022年40号(全27話)
地球を守るヒーローと恋に落ちた主人公、そして2人の間に生まれた息子の運命を辿るSF純愛ドラマ。
毎度何かと強烈なインパクトを残して語り継がれる『LIGHT WING』『SOUL CATCHER(S)』の作者による新作。完成度の高い第1話で好調の滑り出しを見せ、中堅層に定着するかに思われましたがたちまち失速。守る対象だったはずの地球が何故かラスボスとして立ちはだかり、結局円満なのかも曖昧な和解エンドという理解を超えたオチに至りました。
アクの強い個性がまずい方向に突き抜けていて、読者が置いてけぼりのまま作者独自の世界が広がっていった印象です。この価値観のズレがそのまま主人公たちの理解しがたい行動、ひいては好感度にも響いていて、読み手としては大人らしからぬ我儘を通そうとする夫婦を素直に応援できない状態に陥っていました。また、家族ドラマと言うよりはラブロマンスの要素が濃く、衛くん(息子)が不憫にすら思えるシーンが多々あったのもいただけないポイント。
神海っちゃんファンの目線から見ても「やっちまったな」が率直な感想で、何より主人公が年齢不相応に未熟すぎるのがしんどかった。大人だからこそいざという時に我を通すのが格好いい、といった構図にも別段なっておらず、年を重ねても不安定なまま勢いでゴリ押していたというか……。『ソルキチ』はこの辺りが登場人物の若さと合っていてアツかったんですけどね。
セカイ系としての綺麗な着地を予想していたので見事に裏切られましたが、久々にぶっ飛んだ神海ワールドを体感できたので満足です。巻末コメントを見た感じ、ご本人も満足そうなので万事OKです。
すごいスマホ
2022年23号~2022年46号(全23話)
全知全能(?)の検索端末を手に入れた者たちが未解決事件の謎に迫る情報戦サスペンス。
令和の『DEATH NOTE』を志した頭脳戦漫画でしたが、肝心の「すマホ」のルールに不明な点が多いまま話が進んで臨場感を欠き、アンケート結果も振るわず。上記の先輩打ち切り漫画たちの順番を待つように最下位まで到達し、最大の謎を全く解決しないまま俺たたエンド(単行本で補完)。
設定自体は周到に練られていたものの、それを読者に順序よく提示できなかったパターン。謎解きを進めていく中で、主人公の憶測に過ぎなかったはずの要素が根拠も示されないまま確定情報かのように扱われていたりと、真剣に情報を追っている読者を困惑させる内容になっていました。雰囲気ばかりが先行して説得力が足らず、天才設定の主人公が賢く見えないのもあるあるですね。
その他、細かなツッコミどころも枚挙に暇がありませんが、大きな敗因はメインギミックである「すマホ」の機能にまで推理を要してしまった点にある気がします。過去の事件の真相解明や、接近している「すマホ」保持者との探り合いに加えて、「すマホ」で出来ることと出来ないことの特定まで作業項目に加わってパンクしていたように見受けられました。デスノートは詮索不要の"そういうもの"として存在していたのが偉かった、ということかもしれない。
この辺りが最初からふんわりぼんやりしていたせいか、似たような失敗パターンの『タイパク』と比べても、こちらは化ける気配が全くしなかった。いや、『タイパク』に化ける希望を抱いているお前がおかしいと言われればそれはそうなんですが。
あと私怨を言えばモウラがガチで無理でした。あいつマジで何?
ALIENS AREA
2022年27号~2022年47号(全20話)
異星人に特異物質を埋め込まれた高校生が、公安の特殊部隊で戦うコズミックアクション。
明確に『Men in Black』が脳裏に浮かぶような設定のファンタジー刑事バディモノでしたが、序盤からテンポをつかめず打ち切り街道を直進。ここ1年では最短の20話で終了となりました。
ジャンプの土俵で戦うにあたっては、バトルパートよりドラマパートを優先しすぎてしまったことが失策でした。少年漫画らしい異能バトル展開を期待させる第1話に反して顔面どアップのコマばかりが並ぶ会話劇が繰り広げられてしまい、肩透かしをくらった読者が離れてしまった印象です。戦闘シーンの少なさに起因して、主人公の存在感が薄れてしまったのも致命的でしたね。
シナリオや台詞回しにも味があっただけに、それをどうにか少ないページ数に圧縮する技術さえあれば……と感じてしまう惜しい作品。明菜さんのエピソードは特に体重が乗っていて、ドラマパートに拘るのも納得できる出来栄えではありました。ただ、せっかく迫力のあるバトルシーンを描けるのに、それをあまり多く見られなかったのが何より残念でした。
新人作家とのことでしたが、各所のコメントや作中のモデルなどから察するに若手ではなく一世代上の方なのでしょうか。今作は少年漫画誌との温度差も少しあったので今後の活動の場所がどうなるかも気になりますが、どこであれ、更に洗練された次回作が見られたら嬉しいですね。
高校生家族
2020年40号~2023年12号(全122話)
全員が一斉に同じ高校に入学した一家がそれぞれの青春を謳歌する学園×家族ギャグ。
かつて長らく巻末のギャグ枠を担っていた『磯部磯兵衛物語』の作者が、今回は巻末の固定ポジションではなくアンケート結果通りの掲載順で新連載に挑戦。序盤は打ち切り圏内まで沈むも息を吹き返して中堅層に定着し、上下の振れ幅こそありつつもまずまずの位置をキープして2周年を迎えました。ところが、平均順位がわずかに下がったタイミングで急転直下の打ち切りが決まり、惜しまれながらも駆け足で"卒業"する運びに。
前作同様、脱力感のあるシュールなギャグが十分に読者の心を掴んでいたことは言うまでもありません。それでも安定感を欠いた理由を強いて挙げるならば、オムニバスに近い形式ゆえの難しさでしょうか。父のバレーボール回や妹の将棋回といった人気シリーズに比べて他の縦軸エピソードが見劣りするなど、物語の幅広さが災いして読み手にとっての当たりはずれの差が大きく出てしまいました。
ギャグに全振りかと思いきやハートフルだったり、現在のジャンプに不足しているスポ根成分まで補給してくれたりと、間違いなく誌面を支えてくれていた一作でした。同じ日常ギャグ枠に『僕とロボコ』『ウィッチウォッチ』がいたとはいえ、時折すさまじい爆発力を見せていただけに打ち切るにはもったいなかった。
単行本の売れ行きが芳しくなかったことを受けての判断のようですが、後発の『イチゴーキ!操縦中』も軌道に乗っていないなかでの打ち切りだったことを鑑みるに、作者自らギブアップした可能性もありそうです。
理由はどうあれ、また読み切りや新連載が見られることを祈るばかりです。『磯兵衛』にも共通して言えることですが、パッと見では出オチ感も漂う作風でも次々に不思議な笑いを生み出せるのは並ならぬ腕前ですよね。
PPPPPP
2021年41号~2023年13号(全70話)
名門ピアニスト一家で唯一の凡才だった末っ子が天才たちに挑む映像体験型音楽バトル。
少年ジャンプの誌上では異彩を放つ、独特のタッチで描かれるピアノ漫画。13話時点で最下位に到達する最悪の滑り出しから奇跡の復活を遂げ、「次にくるマンガ大賞2022」では5位に入賞するほどの人気を集めましたが、徐々に勢いを失っていき最後は衝撃のバッドエンドでぶつ切りに。
絵柄もストーリーも癖が強く、それ故に刺さる人には刺さって一定のファンを獲得していたものの、話が進むにつれて抽象度と難解さが増していきファンすらも置き去りにしてしまいました。自身の才能を愛するに至るまでの葛藤や天才と凡才の(または天才同士の)相互不理解など、ずっしりとした重みのあるテーマを扱っていただけに、わかりやすいエンタメ性を欠いたことがそのまま読者離れに直結した形です。
人のために行動する主人公がなかなか報われず否定すらされる展開はさながら『宝石の国』にも似た辛さがありましたが、だからこそハッピーエンドを迎えてほしかったですし、打ち切りにあたって尻切れトンボになってしまったことが悔やまれます。ジャンプ+に移籍してでもどうにか継続してもらって、円満完結の世界線を見届けたかった。
次回作も既に動き出しているようで楽しみですね。今作より大衆受けに寄せるのか、このままの路線で突き抜けるのかが気になります。
総括
今年度は『あやかしトライアングル』の移籍や『ルリドラゴン』の休載、さらには『HUNTER×HUNTER』の再開も影響して、昨年度と並んで打ち切り本数は控えめな1年でした。周年カラーを飾った漫画の完結も複数あり、重篤な問題作もお目にかかれず、打ち切り漫画ファンとしてはいささか物足りないラインナップにも見えます。
また、全体的に打ち切り漫画が長寿化の傾向にあり、20話未満で終わる漫画は一切なく、すべて単行本が3巻以上出ています(現状、最後の2巻完結は2年前の『ぼくらの血盟』)。一度沈んでから浮上するケースも増えているのでじっくり様子を見たいのかもしれませんが、可能であればもっと話数を減らして回転率を上げてほしいところですね。早くまた『斬』や『タイパク』のような心躍る打ち切り漫画に出会いたい。
近頃は『ヒロアカ』『ブラクロ』『呪術』『夜桜』『マッシュル』と長期連載が軒並み完結を視野に入れていて、次世代の王道バトル漫画の立ち上げが急務なのは明らかです。
欲を言えばスポーツ系にも『アオのハコ』だけでは賄いきれない部分を埋めるような新星が現れてほしい。『ハイキュー!!』完結以降のスポ根は未だ『クーロンズ』1本だけですし……。
ジャンプのお家芸だった引き伸ばし展開が疎まれて久しい昨今では、昔のような10年規模の連載も見られなくなっていて、このまま行けば2年ほどで「5年以上連載が続いているのは『ONE PIECE』と『HUNTER×HUNTER』だけ」なんて状況も起こり得ます。
そんな新時代を支える新たな看板タイトルは、ほかでもない打ち切り漫画の山の中から生まれてきます。毎年この記事でも主張している通り、新連載はひとつひとつが壮大な実験であり偉大な挑戦です。数々の挑戦の先に生まれる未知の名作に期待しながら、来年度も少年ジャンプの打ち切り漫画たちを見守っていきましょう。
以上の感想をもって、今年度の打ち切り漫画決算としたいと思います。
これを読んだ方に僕の熱量が少しでも伝わって、「後ろの方に載ってるやつにもなんか面白い部分があるんだな」と思っていただけたなら幸いです。
俺たちの戦いはこれからだ。各先生の次回作にご期待ください。
今年度も1年分の打ち切り漫画たちをおさらいしました。少年ジャンプを毎週なんとなく読んでいる皆さん、この機会に彼らの事を思い出してあげてください。 #はてなブログ
— ササンチ (@pluMegane) 2023年3月31日
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