フリーライターなるしかねえ

社会不適合な若者の日記です

G2 esportsから考えるeスポーツ界の「ヒール」の存在

久しぶりに書きます。eスポーツにおいてヒールの立ち位置を取るという選択の話。俺の推しチーム、G2 esportsについて。

 

きっかけはアカホシさんのこのツイート。

これを見た俺の頭には真っ先にG2の名前が浮かんだので、このチームの存在を軸に考えてみる。

まずは念のため、「ヒール」の意味を確認。以下、Wikipediaより抜粋。

プロレスにおけるヒール(Heel)は、プロレス興行のギミック上、悪役として振舞うプロレスラーのこと。悪役、悪玉、悪党派などとも呼ばれる。通常、ヒールは反則を多用したラフファイトを展開する。

さすがに反則行為なんかは前提に含められないので、ここで言う「ヒール」の定義は「興行としての競技を盛り上げるために進んで悪役を演じる人、またはチーム」くらいの認識で話を進めます。
特に大切なのは「進んで」の部分。単純に強いだけの常勝軍団が他のチームから目の敵にされている、みたいなケースはこれに含まないということで考えていきたい。

 

eスポーツの世界にヒールはほぼいないものの、思い当たるチームが1つだけある。それが俺の推しチーム、G2 esports。多くの競技タイトルで実績を残している世界的な超大手マルチゲーミングチームでありながら、畜生ムーブでヘイトを集めまくっているイカれたエンタメ集団です。

まず大前提として、G2は強い。LoLやCS:GOを筆頭に、各タイトルで世界最上位と言って差し支えないレベルの実力を誇っています(今年はLoL部門がコケたけど)。その好成績の数々から、昨年にはeスポーツ界で最も栄えある賞「Esports Awards」eスポーツ組織部門を受賞しました。
その強さを支えるのは圧倒的な資金力で、スポンサーに名を連ねるのはBMWAdidas、Mastercardといった世界的大企業。最強のマネーパワーに物を言わせて優秀な選手を多く雇い入れ、強引な引き抜きだって平然とやってのける。要するに、俗に言う金満チームです。イメージとして近いのは大正義巨人軍(あくまでイメージです)。

これだけでも人の恨みを買う要素は十分すぎるほど揃っているのに、さらに凄まじいのがSNSにおける露悪的な振る舞い。チームの公式アカウントが試合前・試合中にも関わらず敵チームに向けて挑発的なリプライを送るなど、喜んで嫌われ役を買って出るような言動を率先して行います。
海外ではチーム同士がジョークを交えて煽り合う光景も珍しくないですが、G2はこれがもうブッ飛んでいて最高。参考までに近年の傑作をいくつか紹介します。

【NiKo引き抜き事件】
CS:GO部門のライバルチームFaZe Clanからエース級のスター選手NiKoを引き抜く際、オーナー自ら「FaZe Clanは腐れピエロ野郎どもの集まり」「家族でやってるパン屋みてえな経営してる」などとツイート

【Perkz売却でウハウハ】
LoL部門でEU最強とまで言われたチームの顔とも言える選手Perkzを放出して莫大な移籍金を得た直後、笑顔で札束に囲まれるオーナーの写真と共に「大金が手に入ったんだけど、ウチ入りたい奴おる?」とツイート

【そのための飛行機】
VALORANT部門のライバルチームSentinelsに「ファック」と伝えるためだけにわざわざ飛行機を用意し、スペシャル動画で宣戦布告ツイート

もうめちゃくちゃですよね。これをオーナーのOceloteが先頭に立ってやってるんだから恐ろしい。ぐうの音も出ないほどの畜生。
そんなオーナーの影響もあってか、所属選手たちのTwitterでもトラッシュトークは繰り広げられていて、しかもこれが皆やたら上手い。チーム内でそういう研修でも受けてるのか?ってくらいユーモアに富んでいて、皮肉を利かせたジョークのキレがいい。
そんな減らず口を叩くどうしようもない奴らなのに、実力は折り紙つきです。G2は大量のアンチを抱えながらも、それを遥かに上回る人気を獲得しています。
とにかく傲慢で、不遜で、悪態をつきまくるチーム。それでいて眩しいほどに強く、逞しく、ライバルたちを脅かすチーム。にっくき敵役でありながら、魅力的な憧れの存在でもある。G2 esportsは紛れもなく最強のヒールとしてeスポーツ界に君臨していると言っていいでしょう。

彼らの動向を追っていると、真剣な競技の世界で自らをヒールとしてブランディングする上で気をつけるべき要点がいくつか見えてくる気がします。個人的にG2の上手いと思う部分として挙げたいのは以下の4つ。
1つ目は、あくまでも真摯な態度であること。選手や競技には最大限(最低限だろ、という人もいるかもしれませんが)のリスペクトを持ち、シーンを盛り上げながら、そして選手の立場を守りながら勝利を目指す姿勢には一切の噓偽りがありません。引き抜きのような心証の悪いことをする時にも「俺たちは悪いことをしているぞ」とあけすけに示すことで、かえって正直で明るい印象を保っている。
2つ目は、ヒールとしてのチームにも適性のある選手を集めていること。何もこれはワルい輩を集めているというわけではなくて、ヒール然としたパフォーマンスに"ノリノリで加わってくれる"または"一切の関心を示さない"のいずれかが出来る選手が揃っていて、中途半端に「こんなのよくないよ」みたいなウジウジした態度を取る人がいないということです。嫌われることを意にも介さない畜生メンタルは競技的にも有利に働くため、ヒールの立場を保つために必要な"強さ"が補強される面もあります。
3つ目は、選手個人の魅力の発信を怠らないこと。メディア露出やコンテンツ作成を精力的に行い、選手のパーソナリティに触れてもらう機会を増やすことで「ヒールとしての振る舞いはあくまでチームカラーであり、選手個人の魅力はまた別にある」とファンに発見してもらえます。ヒールを楽しむ文脈を理解してもらい、チーム運営側(主にオーナー)にヘイトを集めることで選手を守る効果もあれば、「ワルい奴と思われがちだけど本当はいい奴だって俺は知ってる」と感じるファンたちの団結を強める効果もあります。
そして最後に、やられ上手であること。彼らは普段から大言壮語を並べている分、負けた時には大いに悔しがったり、清々しいほどの負け惜しみを吐き捨てたりしてくれます。2019年のLoL Worlds決勝で惨敗した時には、散々息巻いていたオーナーが無様にピエロメイクを施されるという100点満点の負け役っぷりを見せました。ファンもアンチも全員笑顔にするヘイトコントロールが見事です。

かくしてG2はヒールとして巧みにブランディングをしながら立ち回り、シーンを大きく盛り上げているわけですが、こんなチームは唯一無二レベルの稀有な例だと思います。もはや奇跡的なバランス。マジでめちゃくちゃ難しいことをやっている。

 

ここで冒頭の疑問、「いわゆる『ヒール』の存在がいない理由ってなぜなんだろう?」に立ち返ります。
結論から言ってしまうと、めちゃくちゃ難しいわりにリターンがないからでしょうね。プロ選手・プロチームが競技シーンでヒールのポジションを確立してやっていくには、条件が厳しすぎる上にリスクが高い。

まず最低条件として、強くなければいけない。悪ぶってるだけで実力がなかったら誰も応援してはくれないし、ましてやスポンサーなんて見向きもしてくれません。ところが、シンプルに「強くあること」のなんと難しいことか…。
加えて、ヒール的な振る舞いを受け容れる文化的な懐の深さが見る側になければいけない。観戦するファンたちのコミュニティにプロレス的なエンタメを楽しむ土壌ができていないと、ただ寒いだけの存在になってしまう。スポンサーにもそういう種類のエンタメを提供することを理解してもらう必要があります。ところが、まず「寛容な文化を形成すること」のなんと難しいことか…。

これらをクリアしてようやくヒールという役柄が成り立つのに、その先に待ち受けているのはとんでもないリスクとプレッシャー。
強気な言動を繰り返すうちに、多くの人に嫌われかねない。ひとたび成績が落ち込んでしまえば、一気にスポンサーが離れかねない。そんなチーム環境で選手たちにプレイさせるのはなかなかに酷なものです。シーン全体の盛り上がりこそあれど、チームや選手の得られるものが左程ないんですよね。
結局のところヒールというのは、強さや選手の個性といったごく当たり前の魅力がしっかりとアピールできるチームにのみ許される、鮮烈なチームカラーを付加するためのオプションでしかない。正直、酔狂の域だと思います。やっぱG2はすげえんだ。

とりわけ今の日本においては文化的な面で実現が難しそうです。出る杭を打ちたがる国民性に加えて、文脈を読む力の欠如、煽情的な偏向切り抜き拡散等々、ヒールの妨げになる要素がてんこ盛りに見えます。恋愛リアリティショーで嫌われ役をやっていた女の子が本気で嫌われすぎて自殺まで追い込まれる、なんて前例を見ていると…。
とにかく、当面は悪役の登場には期待せず、清く正しい選手たち同士の戦いを楽しむスタンスの方がよさそうに見えますね。

 

ここからは完全に俺のお気持ち文なんですが、出来ることなら日本の競技シーンにもヒールが現れてほしいと俺は思っています。対立構造でエンタメ的にすごく盛り上がりやすいというのもさることながら、個人的にスポーツマンに完璧を求める空気にうんざりしているというのが大きな理由です。
クリーンな印象の強いスポーツの世界も、勝負の世界である以上は綺麗事ばかりじゃないと思うんですよね。それなのに潔癖な外野に気を遣うあまり、皆が皆おためごかしを陳べて汚い部分をひた隠しにしている感じがどうも面白くないと感じてしまう。
「昔はワルかったけど今は立派になった」も確かに素敵な文脈ではあるけれども、その人の抱える悪辣さを敢えてさらけ出すことでこそ生まれる魅力もあるはず。イブラヒモビッチやニック・キリオスみたいに、"悪童"と呼ばれるようなスタープレイヤーがもっと居ていいんじゃないでしょうか。完璧を求めるのではなく、ある程度ダメな奴、悪い奴と認識した上で実力のすごさを受け入れる姿勢が、文化があってほしい。

少なくとも、俺はそういう人間的な危うさと紙一重のところにある才能にひときわ魅力を感じてしまうんですよね。"野球の上手い不良"みたいな、人間性も生活力もダメダメだけど競技の実力だけはあるような存在が放つ「俺にはこれしかないんだ」という狂気じみた熱意の輝きが好きな人、きっと俺以外にもたくさん居るはず。
はっきり言ってeスポーツの世界には、ダメな奴が多いと俺は思う。いちeスポーツファンとして、常日頃から「どうせゲームなんかやってる連中は…」みたいな言説に対しては反発してはいるものの、一方で心当たりがたくさんあるのも確かなんですよね。フィジカルスポーツの世界にも社会性のない人はいるけれど、eスポーツはその比じゃない。ニート予備軍みたいなダメ人間がゴロゴロいるのがゲーム界隈であるということは、直視すべき現実です。
ただ、俺はそれをあながち悪いことだとも感じていません。なぜなら、それは運動も勉強もできない、性格が悪くて友達もいない、そんな人間に最後まで寄り添ってあげられるのがゲームであるということの証左に他ならないからです。俺はこれがゲームの一番スゴイところだとすら思っていて、俺がゲームを愛する理由もまたここにあるからです。

後ろ暗い部分ではあるけれど、この前提があるからこそ俺はeスポーツに惹かれているとも言える。eスポーツという舞台には、「ゲームしか能がないダメ人間が脚光を浴びる最後のチャンス」としての輝きがあるわけです。
そして、そういった性質を持つeスポーツという舞台だからこそ、ヒール的な売り方はマッチする可能性がある。後ろ暗い部分があるからこそ、敢えてそれを隠さずに露悪的に振る舞う。人間性の欠如を逆に誇張して、アイコンとして利用する。選手たちの本当の魅力、狂気じみた熱意と努力の結晶を見せるための足掛かりとして、そんな人気の集め方があってもいいと俺は思う。

四方八方にトラッシュトークを仕掛けていても、「多少貶し合ったって、プライド全乗せした方が面白いだろ?あとアイツちょっとムカつくしな」ぐらい素直なスタンスでいてくれた方がかえって真摯に思えるし、人間のちょっと嫌な部分も誤魔化さずに楽しませてもらえる感覚がある。だから俺はG2が好き。でも日本からはこういうチーム出て来ないだろうなあ~~みんないい奴ヅラしやがってよォ~~~

 

以上、読んでくださってありがとうございました。完全にG2信者目線で書いちゃったから「そんなわけないやん」な部分もあるかもしれないけれども、あくまでヒールの理想像を書きたかったということで許してほしい。
最後に宣伝しておくと、G2のTwitterYouTubeは見るだけで国際的なeスポーツシーンがかなり楽しめるようになるのでめちゃくちゃオススメです。ファッキンクールな運営に感謝。

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この写真ほんとすき