フリーライターなるしかねえ

社会不適合な若者の日記です

コロナ禍の飲食店へ、石橋貴明YouTube“東京アラートラン”のエール

 世はコロナ禍に苦しんでいる。緊急事態宣言を乗り越えたかに見えた企業も、7月に入って廃業に追い込まれた例は数知れない。

 そんな中、特に苦戦する飲食業界を救うため、一人の男が立ち上がった。男の名は石橋貴明。彼はその知名度を以て、YouTubeでオススメ店舗を紹介する企画を立ち上げた。それも、ただ1店舗を紹介したわけではない。もっと言えば、1店舗すらまともに応援しなかった……?

 一見するとハズレ回にも思える企画だったが、僕はそこに、業界全体へ向けた力強い激励を見た。

 

 

 

 

 とんねるず石橋貴明&名物ディレクター・マッコイ斎藤のコンビが送るバラエティYouTubeチャンネル、『貴ちゃんねるず』。規制が厳しくなったテレビ業界で窮屈な思いをしている貴さんが、『とんねるずのみなさんのおかげでした』よろしく「ノリだけで何でもやっちゃう」番組をアップする大人気チャンネルだ。開設から一ヵ月と一週間で、既にチャンネル登録者は100万人を優に超えている。

 このチャンネルで始まった新企画“東京アラートラン”は、『みなさん』の人気コーナー“きたなトラン”のリニューアル版。コロナ禍で経営不振に喘ぐ飲食店に赴き、コロナが収束したらお客さんがいっぱい来るようにと、貴さんの力でもってお店の魅力をPRしようというものだ。
 第一回となる今回のお店は、「二代目恵比寿ビヤホール」。恵比寿駅から徒歩1分という恵まれた立地ながら、4月からずっと閑古鳥が鳴いている状態だという。ここで貴さんは、一体どんな魅力を発見し、発信していったのか。

 

www.youtube.com

 

 

 結果は御覧の通りだ。
 “きたなトラン”の時と変わらず、人気メニューを後回しにしてオーナーを振り回し、美味しくないものには美味しくないと正直に言う。オーナーも次々にボロを出してしまった末に、最後にメインの唐揚げでようやく納得させる……かと思いきや、それすらも空振り。結局、容赦なく最低評価を下した貴さんは、「潰れてしまえ!」と吐き捨てて店を後にする。

 テレビではできない企画をできる、ある程度の自由度の高さが、YouTubeの大きな利点のひとつだ。この番組も、まさしくそれにあやかっている。
 はっきり言って、今回の内容は軽く放送事故レベルだ。オーナーがミスを連発し、次第に空気が悪くなっていく様子は、とても見ていられたものではない。正直、最初は僕もちょっと飛ばしながら見た(これが出来るのもYouTubeのいいところ)。

 こんな過激な一部始終を現在のテレビで放送しようものなら、間違いなく苦情が殺到するだろう。腹を立てる視聴者がいるのも頷けるし、「なんちゅうもんを晒してくれとんじゃ」というのも至極真っ当な感想だ。
 そんなグレーから黒のギリギリのライン際にあるこの企画は、とんねるず石橋貴明のキャラクターとユーモアによって、辛うじて“冴えない経営者を貴さんが一刀両断してスカッとするエンタメ”として成り立っている。
 他者への攻撃を大っぴらに煽動することは悪とされるが、胸裏ではいけ好かない他人を叩きたい欲望を抱えている人は多い。実際に、この動画のコメント欄には、オーナーに厳しい声を浴びせるユーザーが数多く見受けられる。それどころか、既に視聴者によって店舗の口コミ(Google)が荒らされている始末だ。(まさにこういうことをする奴らがテレビをつまらなくさせた要因なわけで、歴史は繰り返している……が、ここは今回の本題ではない。)
 今回、この番組は貴さんという代弁者を通じて、半ば合法的に人を叩ける場を提供した。趣味の悪さに賛否はあろうが、確かに存在する需要に応えた、その手腕は見事だ。

 しかし、おそらく今回の企画は、ただ一人の経営者が槍玉に挙げられる様子を楽しむためだけに公開されたわけではない。この番組に込められたひとつのメッセージがあるとすれば、それは「コロナ禍に託けて、企業努力を怠ってはいないか?」ということだ。これこそが、石橋貴明という男から全国へ向けてのエールであるように思う。

 

 身も蓋もない話をすれば、この番組もまたバラエティの一環で、言うなれば半分はフィクションだ。

 その証拠に、紹介された店舗のオーナーである桧博明という男は、元吉本芸人。現在は飲食店オーナーをしながら、フリーの構成作家として活動する業界人で、ディレクターのマッコイ斎藤とも旧知の仲だという。
 つまりはプロレスだったわけだ。「二代目恵比寿ビヤホール」及びそのオーナーは、叩いても大丈夫な対象として番組に出演している。明確に、「好立地に胡坐をかいてサービス品質を上げる努力を怠った例」としてフィーチャーされているのだ。

 どこまでが台本かは定かではないが、オーナーの態度や店舗経営に関わる姿勢にヘイトが集まる構成になっている。オーナーが現場のことを把握していない理由を問われた際の返答も、「スタッフを信頼しているから」といった前向きな理由でなく「スタッフに任せすぎて…」と露骨にマイナスな言い訳にしているのが効いている。オーナーへの同情の余地がなくなっていくギミックだ。
 従業員へのケアはしつつも、オーナーは擁護のしようがないものとして描き続け、最後にはバッサリと切り捨ててしまう。最後に浮かび上がったのは、現場を知ろうとする当事者意識を欠き、サービスを改善する努力を怠った経営者の末路だった。それはまるで、「努力を怠っていると、こうなってしまうよ」と言わんとするかのような。

 これを見た全国の経営者たちは、襟元を正すことになるだろう。業績が落ちているのは、果たして全部がコロナ禍のせいだろうか? もっとやれることがあるのではないか? そんな叱咤激励を、『貴ちゃんねるず』は全国に投げかけているのだと僕は思う。

 

 率直に言って、僕はこの構成の面白さにいたく感動した。ただ人を叩きたいだけの層や、貴さんの“YouTubeならではの自由な振る舞い”を見たい層の需要に応えつつ、コロナ禍に苦しんでいる当事者にもエールを送る。これを組み立てたのが貴さんなのかマッコイさんなのか桧さんなのか、はたまた他の放送作家さんなのかは定かではないが、こんな面白い番組が無料で観られることには感謝しかない。

 繰り返しになるが、今回の企画はどこまでが台本かはわからない。個人的には、かなり素でやっている部分が大きいように感じている。
 一部レビューサイトを見るに、数ヶ月前の時点で店長と揉めた旨の投稿が寄せられたりしていて、番組内の店長の態度や姿勢というのも、元来のものがそのまま出ているように思えてしまう。
 ただ、それすらも一つの特徴的なキャラクターとして、そこに忖度をしない正直な貴さんの人格を上手く挟んで、コロナ禍の世の過酷さと、経営の厳しさを教えてくれている。これはバラエティの枠をはみ出した、とんでもない社会派番組だ。