フリーライターなるしかねえ

社会不適合な若者の日記です

日向翔陽は「小さな巨人」ではない|『ハイキュー!!』最終話を読んで

 『ハイキュー!!』が完結してしまいました。不思議と寂しさや虚脱感はないというか、満ち足りた幸福感が勝っています。結構、みんなそんな感じだよね? たぶん再来週のジャンプを読む頃に寂しくなったりするんだろうな。

 ということで、熱が冷めやらぬうちにオタクのお気持ち文を書いておこうと思います。当然ネタバレを含むので、最終話を読んでいない方は読んでからまた来てください。

 

 

 

 

 

 

 本編については語りたい事が無限にあるし、一コマ一コマを指さし確認しながら「ここはね~!!」と言い合う会を開きたいくらいです。そういうYouTuberになろうかな。

 ただ一点だけ挙げるとすれば、この物語の結末として、日向翔陽が小さな巨人」にならなかったことが何より最高だと思っていて。新しく、オンリーワンの存在として未来へ羽ばたいていったのが良かった。という話をさせてください。

 

 『ハイキュー!!』の始まりは、間違いなく日向が「小さな巨人」に憧れるところからだったんですよ。日向も、明確に「小さな巨人」になることを目標にしてバレーボールを始めました。これは主人公が「小さな巨人」になるまでの物語だと、読者の誰もが思っていましたよね。
 ただ、影山の日向に対する評価は違って、初期からずっと「最強の囮」として見ている。「最強の囮」というワードの初出は第10話、青城との練習試合に向けて作戦を練る回。そこから、囮としての日向の動きにもスポットライトが当たるようになりました。

“エース”って冠がついてなくても
お前は誰よりも沢山の得点を叩き出して!
だからこそ敵はお前をマークして!
他のスパイカーはお前の囮のおかげで自由になる!
エースもだ!!

それでもお前は今の自分の役割が
カッコ悪いと思うのか!!!

 これが23話、西谷と東峰が合流して町内会と試合してる頃。こんな昔から、影山は「最強の囮」としての日向の魅力を本人に力説しています。

 一方の日向は、夏の伊達工戦で「最強の囮」のカッコ良さに気づき始めたりしつつも、その後はリエーフと出会ってセンターエースを意識したり、和久南戦では中島に「小さな巨人」対決で負けて悔しがってたり。やはり、あくまでも「小さな巨人」を目指し続けていました。

 

 結局、日向が「最強の囮」の道を行くことを決めたのは高校編の最後の最後、鴎台戦でのこと。元祖「小さな巨人」の宇内くんとの出会いもこの時でした。
 宇内くんが初登場した当時、日向とは対照的に「がっかり」していた読者がいっぱいいたのを覚えています。「思ったより普通」とか「師匠役じゃないのかよ」とか、「最前線で戦ってるキャラとして出てくると思ったのに」みたいな感想がいっぱいあったの、未だに根に持ってる。陰湿オタクなので。
 でも、誰がどう思おうが、あっさりとバレーボールを辞めてしまった存在として彼は登場しました。それはすなわち、“日向が至る先は宇内ではない”ことを示している。だからこそ、日向は「あんまがっかりしてない」んです。それを聞いて「やっとかよ」と零した影山。日向はその瞬間こそピンと来ていませんでしたが、鴎台との戦いの中で実感と共に気づくわけです。ひとりでは勝てないことに、「最強の囮」としての自分の強さに、そして、バレーボールの面白さの真髄に。

 ずっと憧れてきた「小さな巨人」という偶像は、日向に与えられたたったひとつの答えではなかった。影山飛雄という天才と共に戦うことで見えた、「最強の囮」という新たな答え。日向翔陽はそれを身をもって理解し、体現していく決意をしました。「小さな巨人」の称号を、星海に譲る宣言までして。
 同時に言っていた「自分で自分を囮って思うことは多分一生ないけど。」という言葉も、その理解の深さを示していますよね。囮になろうとしてなるのではない。自分が誰よりも点を取る。圧倒的な存在感を放つ。結果として、囮としての影響力が増していく。理想的で正しい「最強の囮」像が、日向の中に確かな実感として落とし込まれたわけです。

 

 Vリーグ編は、完成した「最強の囮」の姿を披露する舞台でした。自分で自分を囮にするような動きからのレシーブ、さらには正確なセットアップ。攻撃だけでなく、それに繋ぐ全ての動きの中で、眩しい存在感を放つ日向がそこにはいました。

 極めつけは、決勝点のシーン。“コートの横幅めいっぱい”、移動攻撃に走る日向。ブロックに飛ぼうとする影山。第1話、中学時代最初で最後の試合ではアウトになって試合が終わってしまった、ライト側からのスパイク。奇しくもあのラストシーンと同じ構図。
 誰しもが日向に目を奪われたその直後、トスが上がった先はレフト側の木兎。田中・東峰がその感覚を思い出す。エースに道を開ける、「最強の囮」の存在感。その真骨頂を見せつけて、この戦いは決着を迎えました。この瞬間、日向翔陽は「最強の囮」として大成したわけです。彼にその道を説いてきた影山の、悔しがりながらも口角の上がるその表情が全てを物語っています。

 この決着の裏切り方がたまらないんです。『SLAM DUNK』がダンクシュートで終わらなかったように、『ハイキュー!!』はクイックで終わらなかった。それが最高なんです。

 「小さな巨人」星海とのリベンジマッチでありながら、その勝利によって「小さな巨人」の座を奪ったわけではない。
 かつて日向の憧れた「小さな巨人」宇内が、逆に憧れる存在になった「最強の囮」。
 正解はひとつではない。一見すると地味に思えるものでも、確かな魅力と価値がある。それを教えてくれる人がきっと居る。そんなメッセージが響いている気がしました。

 最終話には、「小さな巨人」というワードが一言も登場しません。実況のアナウンサーは、日本代表・日向翔陽を「最強の囮」と紹介します。人は皆、彼を「最強の囮」と認識して応援している。
 滝ノ上電器店の店先、自転車に跨る少年は、日向の躍動を見て何を思ったでしょうか。もしや、「まさに“最強の囮”!!」なんてアナウンサーの叫びを聞いて、思わずブレーキをかけたでしょうか。
 「最強の囮」は、誰かにとっての「小さな巨人」になるかもしれない。そんな未来への繋がりを感じさせるエンディングが、たまらなく素晴らしかったという話でした。

 

 

 マジで他にも語りたいこと無限にあるな。誰か朝まで俺のハイキュー語りを聞いてほしい。