ニコニコ動画における「VOCALOID」「歌ってみた」「弾いてみた」タグは、アンダーグラウンドな文化でありながら、一大潮流を巻き起こしていたことは間違いないでしょう。ちょうど10年ほど前には、まさしく群雄割拠の音楽シーンが築き上げられていました。
現在ではその盛り上がりもすっかり下火になり、「砂の惑星」とまで例えられてしまうニコニコ動画ですが、かつてそこで活躍したミュージシャンの多くは、今もなおそれぞれが場を変えて音楽活動を続けています。
今回は、「ボカロとか好きだったな」という人が聴けばきっとハマること請け合いの“ニコニコ動画出身”アーティストを、独断と偏見で紹介していきたいと思います。
私見ですが、ここで紹介する中のどれかひとつが好きなら、他のアーティストもきっと好きになれる可能性が高いです。
2019年4月現在で活動を行っているアーティストの中で、ニコニコ時代と名義が変わっているものを中心に紹介します。ざっくりですが、知名度・古参度が高そうな順です。敬称略。
- 米津玄師
- ヒトリエ
- やなぎなぎ
- HoneyWorks
- GARNiDELiA
- 神様、僕は気づいてしまった
- PENGUIN RESEARCH
- オメでたい頭でなにより
- ネクライトーキー
- サイダーガール
- ヨルシカ
- 須田景凪
- Eve
- 三月のパンタシア
- ナナヲアカリ
- ずっと真夜中でいいのに。
- おわりに
米津玄師
言わずと知れたハチこと米津玄師です。ニコニコ動画出身アーティストの代表とは彼のことであると言っていいでしょう。
『マトリョシカ』など大ヒット作の連続でニコニコを席巻した彼は歌手デビューを果たしたのち、ドラマ主題歌になった『Lemon』の大ヒットで紅白歌合戦にも出場、カラオケで最も歌われるアーティストとなり、今や幅広い世代に知られるスターの座に上り詰めました。曲も書けて、絵も描けて、歌も歌えて、ダンスも踊れる超人です。
「ヨネケン」と略す人には痛みが必要ですね。
米津玄師 official site「REISSUE RECORDS」
「ボーカロイド作品」 ハチ さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
ヒトリエ
ニコニコ動画において『ローリンガール』などで一時代を築いたwowakaがギター＆ボーカルを務めるバンド。邦楽ロックシーンで多大な人気を誇っており、ボカロPとしてのwowakaを知らない層にも有名なアーティストです。
突然の訃報に涙したファンも多いことでしょう。彼の生き様を象徴するかのような高いBPMの楽曲の数々は、必聴の価値ありです。
「つくったもの」 wowaka さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
やなぎなぎ
『俺ガイル』のオープニング曲などで有名なアニソン歌手のやなぎなぎですが、ニコニコ動画ではガゼル名義で「歌ってみた」カテゴリの黎明期から活動していました（当時からやなぎなぎ名義でのアマチュア活動も行っていたようです）。
また、nagi名義で『君の知らない物語』をはじめとするsupercellの楽曲に参加していたことも忘れてはいけません。どちらかというと、「『君しら』の人がソロで活動していること」を知らない人が多いイメージですね。
残念ながら、現在ではニコニコ動画のマイリストが削除されています。探せば再うｐが見つかりますけど
HoneyWorks
“最古の歌い手”であるゴムをはじめ、「弾いてみた」で活躍した使徒、海賊王など豪華メンバーによるクリエイターユニット。
『アオハライド』をはじめとしたアニメの主題歌も多くリリースしているほか、イラストから小説といったメディアミックスまで展開され、その甘い世界観で若年層女子を中心に人気を博しています。
ちぎれるハイトーンボイスでおっくせんまん！とか歌ってた人が今ではこんなに可愛い曲を作っているなんて、ちょっと驚きですよね。
「ゴム箱」 ゴム（HoneyWorks） さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
GARNiDELiA
歌い手のMARiA[メイリア]と、『SPiCa』などで知られるとくPによるユニット。『キルラキル』オープニングの『ambiguous』など、アニメ主題歌で有名ですね。
元々プロのミュージシャンだったことが知られていますが、「歌い手とボカロPがメジャーデビューしてアニソン歌手になった」例と言っていいでしょう。
「メイリアが歌ってる＆歌わせていただいた曲！！！」 MARiA[ﾒｲﾘｱ] さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
「とくP・へっどほんトーキョー・マイリスト」 toku さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
神様、僕は気づいてしまった
公式には正体不明とされていますが、『東京テディベア』等で有名なボカロPのNeruと、歌い手のまふまふによるバンドだと噂されています。あくまで噂です。
常に仮面を被って素顔を見せないミステリアスなバンドですが、かつてニコニコ動画で聴いたような、どこか哀愁を感じるメロディとハイトーンな歌声が魅力的です。いったい何者なんだ……。
「優しい人になりたい。」 Neru さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
「まふりすと」 まふまふ さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
PENGUIN RESEARCH
『人生リセットボタン』で登場するやいなや、一躍大人気ボカロPになったkemuこと堀江晶太がベースを務めるバンド。
現在では作曲家として多くの声優やアニソン歌手に楽曲を提供している堀江晶太の世界観は、このバンドでも存分に発揮されています。
「VOCALOID」 kemu さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
オメでたい頭でなにより
“多声類”として『一人JAM』などで名を馳せた歌い手の赤飯がボーカルを務めるバンド。さらには作曲を担当する三代ギター魂こと324のほか、「弾いてみた」や歌い手のライブバンドで活動していたメンバーが揃っています。
『火ノ丸相撲』のエンディング曲が話題になりましたが、とにかく楽しく騒げる楽曲ばかりで本当にオメでたいバンドです。
「赤飯の炊飯ジャーの中。」 赤飯/オメでたい頭でなによりVo さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
ネクライトーキー
『ゆるふわ樹海ガール』などの脱力系ネガティブロックで知られる石風呂Pこと朝日廉がギターを務めるバンド。昨年くらいから口コミで急激に人気が高まっています。
前身バンド・コンテンポラリーな生活では石風呂P自身がボーカルも務めていましたが、女性ボーカルを迎えて一層キャッチーな魅力が増しましたね。
ネクライトーキー - necrytalkie-official
「石風呂のマイリスト」 石風呂 さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
サイダーガール
歌い手のゆりん、『ナキムシロボ』の村人P（ラムネ）、『非実在少年は眠らない』のもっふーPによって結成されたバンド。なんとガールズバンドではない。
「地元の友達にバレるのが恥ずかしい」という理由で素顔を出さずに活動していて、MVでは代わりに“CIDER GIRL”として可愛い女の子が登場します。
「まいりすと」 yfn さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
「オリジナル炭酸」 ラムネ さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
※もっふーPのマイリストは非公開となっていますが、動画は健在です。
ヨルシカ
『ウミユリ海底譚』で有名なボカロPのナブナ（n-buna）がコンポーザーを務めるバンド。透き通る歌声の女性シンガーsuisをボーカルに据え、活動開始とともに急激に知名度が上がっている大注目のアーティストです。
私見ですが、何故かYouTubeのおすすめに出てきて知った人が多いように思います。近年では、音楽を探す/探してもらう場が完全にニコニコ動画からYouTubeに移ってしまった……ということを示しているようにも感じられますね。
「作ったものリスト」 n-buna さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
須田景凪
高い歌唱力によるセルフカバーで知名度を上げたボカロPのバルーンこと須田景凪。「第二の米津玄師」との呼び声も高い、注目のシンガーソングライターです。名前がややこしいところも似てる。
中でも『シャルル』は若年層のカラオケランキング最上位にランクインするほどの人気曲です。もしかすると、『バンドリ！』から知ったという方も多いかもしれませんね。
「曲曲曲」 須田景凪│バルーン さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
Eve
Eveは歌い手でありながら、ボカロPとしても活動しているアーティストです。こちらも高い歌唱力によるセルフカバーが人気で、今年発売のアルバムはついにメジャーレーベルからの登場となりました。
今期のアニメ『どろろ』のエンディングテーマにも採用され、今最も波に乗っているネット発アーティストと言っても過言ではないでしょう。
「harapeco」 Eve さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
三月のパンタシア
女性ボーカル・みあを中心に、すこっぷ、40mP、ゆうゆ、buzzG、堀江晶太などの錚々たる作曲メンバーを揃え、さらにはイラストレーターと小説家まで一体となっているマルチなクリエイターユニット。
みあの歌声に惹かれたクリエイターが集まったというこのユニットは、まるでひとつの協奏曲のような重厚な魅力があります。さらにはアニメのタイアップも多数と、まさに引く手数多の大人気です。
ナナヲアカリ
天使を自称する「ちょっと頑張る引きこもり」女性シンガー。DECO*27、Neru、ピノキオピー、Eve、バルーンなど多くのボカロPから楽曲提供を受けていますが、中でもナユタン星人による楽曲が代表的です。
昨年には、アニメ『ハッピーシュガーライフ』のオープニング曲『ワンルームシュガーライフ』でメジャーデビューを果たしました。ライブパフォーマンスも非常に良く、さらにはYouTuber的な活動も行ったりと精力的に幅を広げています。実際に彼女が動いているところを見てもらえるとわかるんですが、オタクは絶対に好きになります。
「あかりんの曲たち」 ナナヲアカリ さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
「ナユタン星基地局」 ナユタン星人 さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
ずっと真夜中でいいのに。
これは“ニコニコ動画出身”の括りに入れていいのか最後まで悩んだので“+1”とさせてください。『フィクサー』などで知られるボカロP・ぬゆりが編曲で参加しているユニットなのですが、作詞・作曲は主にボーカルのACAねが手掛けています。
そして、何と言ってもこの女性シンガー“ACAね”の素性がわからないのが現状です。さらには他のメンバーもほとんど明かされておらず、とにかく謎の多いユニットです。
しかしながら、素晴らしいハイクオリティで生み出される楽曲の数々が、歌詞、メロディ、コード進行、そしてMVの節々にどこか「ニコニコ動画の住民の心を掴む要素」を押さえているのは事実でしょう。きっとニコニコのどこかで育ったアーティストに違いない……。これは一度聞けばすぐにわかると思うので、是非ここで紹介させてください。
「最強になる」 ぬゆり さんの公開マイリスト - ニコニコ動画
おわりに
ここまで僕の拙い文章にお付き合いいただき、ありがとうございました。
これを書いている僕は、『裏表ラバーズ』や『結ンデ開イテ羅刹ト骸』が投稿された2009年頃（当時中学二年生）にニコニコ動画にハマり、青春時代をボカロ・歌い手の沼で過ごしたオタクです。
オタクがオタクであることを公言できるようになり、アングラ文化が世間一般にも認められるようになって久しいですが、今回紹介したアーティストたちの目覚ましい活躍はまさにそんな今の時代を象徴するようで、アングラ育ちの僕は嬉しく思いながら楽しんでいます。
また、今回は紹介しきれなかったアーティストもたくさんいます。ボカロ曲を投稿し続けていたり、歌い手としての活動を続けている人もいれば、ゲーム音楽やアニメソングの作曲を主な仕事としている人もいます。もちろん、いつの間にかどこかへ去っていってしまった人も……。皆さんが好きだったあのボカロPやあの歌い手が、最近はどんな活動をしているのか、気になったら是非調べてみてください。個人的にはトーマ復活の兆しがアツい今日この頃です。
最後になってしまいましたが、僕がこの記事を書くきっかけにもなった、4月5日に急逝されたwowaka様に、謹んで哀悼の意を表します。
彼の残した作品はいつまでも僕たちの中で生き続けます。彼と同じ世界で育って活躍し続けているアーティストや、彼に影響を受けてその遺志を受け継いだアーティストだっています。彼の代わりとは言いませんが、ここで紹介させていただいたことが“wowakaロス”に暮れる人の助けになれば幸いです。
